July 06, 2005

ボブ・ディランの奇妙な世界


World Gone Wrong

このアルバムは、ディランが発表してきた多くのアルバムの中でも、特に珍しい盤の一つといえるのではないだろうか。というのは、ディランというのは、シンガーソングライターのハシリなわけで、これまで、発表してきた数えきれない楽曲のほとんどは、当たり前のように自作自演のものであったわけで。。。。

ところが、この90年代になり、前作Good as I Been to Youから、自らのルーツである、古いフォーク・トラッドのカバー作品を、立て続けに2作リリースしたわけなんです。

私は、前作のGood as I Been to Youは持ってないので、アマゾン上のサンプル音源しか聴いた事がないが、、、、

レビュー等を読むと、元ネタとなっている曲のほとんどは、戦前の黒人によるフォーク・ブルーズとのこと。ディランのルーツというと、ウッディ・ガスリーやピート・シーガー、あるいは、ランブリング・ジャック・エリオットといった、白人のフォークシンガー達の放浪ソング等を模倣して、自らも自作自演するようになったと言われているが、実は、こういう黒人ブルーズマン達の影響も濃厚に受けている事が、この2枚のアルバムで判明したわけです。

そして、私が持っている、この“World gone wrong”というCDで、特に気になった曲というのが、4曲目の、“Blood in my eyes”と。5曲目、“Broke down engine”という曲なんですね。

これら2曲から、ブルーズマンがロックミュージックに及ぼした影響みたいなものを、ここでは取り上げてみましょう。

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まず、4曲目の“Blood in my eyes”。とても、切ないバラッド・メロディで泣き出したくなる曲なんですが、この元ネタというのは、Mississippi Sheiks(ミシシッピ・シークス)という、フィドルバンドなんですね。ボーカル、フィドル、ギターの3人編成。当時のミシシッピのブルーズメンとしては、最も商業的に成功したグループといわれています。まあ、現在では、ロバート・ジョンソンという巨人が、伝説的な演奏力で、この頃のブルーズマンの代表格として祭り上げられるケースが多いのですが、彼が有名になったのは、彼が死んで大分経ってからなんですね。
そして、このミシシッピ・シークスのヒット曲が、“Sittin' on top of the world”というあまりにも有名な曲です。


Stop and Listen

実は、ディラン、前作のGood as I Been to Youで、この曲を取り上げていますね。イナたいギターとディランのブルージーな声がとても様になっております。そして、このSittin' on top of the worldをカバーして有名なのは、シカゴブルーズの巨匠、ハウリン・ウルフ先生がおります。先日にも紹介した、ロンドンセッションのアルバム。


The London Howlin' Wolf Sessions [Deluxe Edition]

ここでも、クラプトンらとともに、この、Sittin' on top of the worldを演奏しています。イントロから押し寄せる、イナたいハーモニカプレイがいいですね!!そして、この曲をさらにカバーしているのが、クリームなんです。ご存知、このアルバム。


クリームの素晴らしき世界

ご存知、White Roomから始まるこのアルバム、その2曲目が、このトップオブザワールドなんですね。そして、先日からお伝えしている様に、クリームの再結成の際に、この曲では、ジャック・ブルースが、ベースを弾きながら、ホルダーでハープも吹いている。これは、おそらく、ウルフのバージョンに敬意を表して、忠実に再現を試みているんですが、このジャックのハープのイナたさは、むしろ、ミシシッピ・シークスのバージョンに近い印象さえ受けてしまう。
もちろん、シークスのバージョンでは、ハープではなくフィドルが単音持続音メロディを奏でるのですが、元々、ブルーズにハープ(ハーモニカ)という楽器、彼らが活躍をし始めた1910〜20年頃にはまだ登場してないんですね。フィドル(バイオリン)が持続音メロディを奏でていた時代が、ブルーズにはあるんですね。それが、お手軽なハープにとって換わられるようであります。

思えば、我が国日本でも、ちょうど時期を同じくして、ちんどん音楽が全盛を極めた頃、三味線がメロディを奏でていたのが、クラリネットやサクソフォンに換わっていったというのを、以前このブログ上でもお話ししたかもしれませんが、弦楽器というのは、まだ電化されないこの時代には、音量の部分で他の楽器とのマッチングがとれない。音が小さ過ぎるんですね。一方、サックスやハーモニカといった吹奏楽器は、吹けば、大きな音が出ますからね。アメリカでも日本でも、フィドル、三味線が廃れていった背景が、共に全く同じ理由なのが面白いところです。
まあ、ブルーズもちんどんも、当時はどちらも、ストリートミュージックですから。。。。アウトドアで音量というのは、とても重要な要素なんですね!!

さて、話が飛んでいきましたが、このように、ミシシッピ・シークス→ハウリン・ウルフ→クリーム という、カバー経路を辿って、2005年でも未だに演奏されているこの曲の偉大さと、さらに、そんな曲を作った、ミシシッピ・シークスもとても偉大なブルーズメン達だったわけですね。ディランはよおくそのことを理解していたわけです。

さて、そして、5曲目の、Broke down engine。“壊れた機関車”という邦題で書かれる事が多いですね。この曲の元ネタは、ボブ・ディランが最も敬愛して止まない、ジョージア出身の、Blind Willie Mctell(ブラインド・ウィリー・マクテル)という盲目ブルーズマンである。私も、ディランのこの作品を聴くまで、全く知る由もなかった人物なんですが、その後、いろんな書物を紐解くうちになんとなくこの人物の情報が入ってくるようになった。


The Early Years 1927-1933

実は、この私、ブルーズ趣味が高じて、学生時代になんと1万円もする4枚組の戦前ブルースのすべて 大全 4CDという、コンピレーションを購入。そして、このCDの解説書が当時の地域ごとに、特色や流行等を分析していて、とても判りやすい内容となっている。このセットで、大体おさえるべき、戦前ブルーズマンは大体網羅しているんでね。。。
そして、ここの1枚目、ジョージア地域のブルーズマンという解説で、彼のことが書いてあった。この地域の特色としては、12弦のギターを使用し、フィンガー・ピッキングで、なおかつスライドもプレイすると言う、今となっては珍しい奏法なんですね。ご多分に漏れず、このマクテルも、軽快な複弦サウンドを聴かせながら、時折、スライドを絡ませることがあり、とても面白いサウンドである。また、この辺りのブルーズというのは、ラグタイム系の、軽快なノリが特色ですよね。デルタやミシシッピのような、ジメーっとした陰湿さはあんましないんですね。
そして、この“壊れた機関車”、マクテルが、演奏中にギターのボディを、コンコンコンと鳴らすんですが、ディランも、これをそのまんま再現しているのが面白いですね。

この、マクテルの代表曲として、もう1曲。“Statesboro Blues”があります。この曲、サザンロックの雄、オールマン・ブラサーズ・バンドがカバーしています。


The Allman Brothers at Fillmore East

あまりにも有名なこのライブ盤。ツインドラムにツインリード。そして、天才デュアン・オールマンの粘着質なスライドギターは、多くの人が魅了されました。なんと、1曲目が、このマクテルのカバー、“Statesboro Blues”なんですね。また、原曲とは全く違う、至ってジメーッとしたブルーズに仕上がっています。しかも、このデュアンのスライドギターは、もう、時折ブルーズハープのような、粘り気のあるフレイズで、とても異質な空間に引き込まれますね。素晴らしいの一言です!!!

いやいや、長い投稿となってしまいましたが、いかがでしょうか。
ディランから始まり、オールマン・ブラザーズ・バンドへと行き着きましたが、これらの音楽はとても繋がりがあると言えるわけです。特に、先ほどのSittin' on top of the worldなんていう曲は、ミシシッピシークス→ハウリンウルフ→クリームと、3世代に渡って、この約1世紀もの間に演奏され続けたことが重要で。。。
音楽は、誰かの影響を受けて、また誰かがギターなりを手にして模倣して、その誰かが有名になり音楽を発信する。そして、また誰かがそれに憧れてギターなりを手にするようになる。。。。この繰り返し、輪廻転承がとても重要なんだと思いますね。

ボブ・ディランもそのことの重要性を、充分に理解していて、このような一連のカバー作品をリリースしたんだと思います。





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本名・古田将幸(ふるた まさゆき)
1973年1月。千葉県鎌ヶ谷市くぬぎ山出身。
35歳。
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